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原発事故による健康被害はなかったのか?

 これまで”カテゴリ:原子力を考える”において、12の記事を投稿し、関連する新聞報道をもとに事故の教訓や復興に向けた動きなどを書いてきました。1年ほど前の記事からは、トレーシングペーパーに福島の地図を写し取り、そこに避難指示区域を書き込んでブログ説明図とすることで、自分でも改めて原発事故被害の大きさを実感しました。
 2011年3月の原発事故の発生によって、大量の放射性物質が放出されました。そのため、その後11年が経っても、立入りが禁じられた帰還困難区域(面積約337㎢で、名古屋市の面積に相当)が存在し、今なお3万8千人もの多数の人々が避難生活を送っています。
 一方、原発事故による健康への影響については、国(官邸や環境省)、県や報道機関も、専門家の放射線被曝の影響は認められないとの結論を基に、被害はなかったという立場に立っているように思われます。
 しかし、本当にそうなのか。原発事故による健康被害がないなら、今なお帰還困難区域が存在し、何万人も避難生活を送らなければならないことなど有り得ないのではないでしょうか。健康被害について何か言うと、偏⾒と差別につながるとの理由から、国や県も不都合な真実を知りたくはありません。行政から委託を受けた県立医大の調査機関は、国や県に忖度し、データ操作をして好都合な結論を導き出した可能性があります。そういったことを示唆する資料を入手しましたので、紹介します。
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 発行は、「福島原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会」で、学者(大学教授や元教授)や市民団体の関係者が会員になっている組織のようです。学者・市民の会は、原発推進派(国・行政側)から見ればサヨクであり、最初から互いの意見を聞こうともしない。このような水と油のような関係は、将来に向けた発展を封じるものであり問題があると思っています。

 目次は、
・はじめに 
 「原発事故による甲状腺被ばくの真相を明らかにする会」活動の中間報告」
1.「福島第一原子緑発電所事故後の外部被曝線量、肥満および小児甲状腺がんリスク:福島県民健康調査」についての質問状
2.p値とは?信頼区間とは?正しい理解へ
3.小児甲状腺がん以外に福島原発事故による人的被害が大量にある
4.被害を隠ぺいする政治に奉仕する「科学」
・資料 公開質問状ほか
となっています。

 「はじめに」には
・会の目的は、福島原発事故の被災者に発生した甲状腺がんの原因が放射線被ばくであることを明らかにすることを2巡目検査(1回目の本格検査)についての福島医大の報告に基づいて明らかにすることとあります。
本格検査で、71人の甲状腺がんが発見され、福島医大は、地域別の甲状腺がん発症率(年間10万人あたりの患者数)を発表した(以下、県立医大資料)。
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放射線量が多い地域ほど発症率が高く、がんは原発事故の放射線の影響を受けて発症したことを示すものでしたが、福島県「県民健康調査」検討委員会の甲状腺検査評価部会は、「甲状腺がんと放射線被曝の間に関連は認められない」と発表した。
・「明らかにする会」は、福島県「県民健康調査」検討委員会、甲状腺検査評価部会および県立医大に、質問および要請をしたが、回答はなかった。
・福島県立医大の大坪教授らは、県立医大資料を否定する論文をEpidemiology(疫学)という専門雑誌に発表した。論文の結論は、
(1)個人の被ばく線量は、甲状腺がん発生率と関連がない
(2)地域の被ばく線量は、甲状腺がんのリスク増加と関連がない
(3)肥満と甲状腺がん発生率には正の相関があった
「明らかにする会」は、Epidemiologyの掲載論文のデータを検証した結果、論文とは真逆の結論になることが判明した。
(1)個人の被ばく線量に従って甲状腺がん発生率は高くなった
(2)地域の被ばく線量が大きい地域で、甲状腺がんのリスクが増加した
(3)肥満と甲状腺がん発生率には正の相関がなかった
「明らかにする会」は、県立医大の著者グループに公開質問状を出したが、著者に質問するのではなく、専門雑誌を通じて質問してほしいとして回答せず。
・今後の活動として、福島県の検討委員会や評価部会は、甲状腺がんの被爆発症を容易には認めないが、「明らかにする会」は、被爆発症の科学的解析を続けていくと同時に、真実を広く市民に訴えていく

 1には、「明らかにする会」の検討の結果、県立医大の論文と逆の結論となることを詳述しています。2では統計の意味についての説明がなされ、3では甲状腺がん以外にも健康被害が疑われるデータについて、4では被害を隠ぺいする「科学」論文がどうして生まれるのかといったことが書かれています。
 最後に、公開質問状ほかの資料が示されています。
 公開質問状には、個人被曝線量と相対リスクの関係を示す次のような図があります。
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この図や先の地域別の甲状腺がん発症率の表のデータは、個人被曝線量や地域被曝線量が甲状腺がん発症と相関があることを直感的に示すものです。相関がないとするEpidemiologyの掲載論文が正しいのなら、その理由を明確に説明してもらいたいと思います。専門家が専門的な理論に基づいて解析するとこうなったでは、一般人の理解は得られません。素人にわかりやすく説明できてこそ、正しい結論と認められるでしょう。

2022年1月27日、全国の地方新聞に向けて、47ニュースは共同通信の記事”被ばくで甲状腺がんと提訴 福島原発事故時6~16歳の6人”を伝えました。

 原発事故による放射線被ばくの影響で甲状腺がんになったとして、東電に損害賠償を求めて東京地裁に提訴したという内容です。記事では、『福島県の専門家会議は、被ばくと甲状腺がんの因果関係について「現時点で認められない」としており、訴訟では因果関係の有無が最大の争点になる』としています。

一般人をも納得させられないEpidemiologyの掲載論文ですが、専門家の”科学に基づく”結論として、伝家の宝刀となる可能性が高いと言えます。

 平成4年の伊方原発の原子炉設置許可処分取消訴訟において、最高裁判所は、「原子炉設置許可処分の取消訴訟における審理・判断の方法」として、
「原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟における裁判所の審理、判断は、原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点から行われるべきであつて、現在の科学技術水準に照らし、右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり、あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には、被告行政庁の右判断に不合理な点があるものとして、右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである。」としています。
 すなわち、後半において、専門家の判断の過程に看過し難い過誤、欠落があり、行政庁の判断がこれに依拠してされた場合は、違法と解すべきという条件は付けているものの、裁判官は専門技術的なことは判りませんから、裁判では、専門家の判断を最優先しますよと言っています。

 被曝による甲状腺がんの裁判では、どんなに不合理な分析内容であっても、専門家の見解とされる福島県の検討委員会が出したか出すであろう結論(放射線被曝と甲状腺がん発症に相関はない)が裁判で重要な意味を持ってくるでしょう。
 専門家の見解が正しいのか、正しくないのか、一般市民も相当の関心を持っていかなければならないと思います。

by FUKIAGE6A | 2022-06-28 23:48 | 原子力を考える | Comments(0)